生命に目的ありや、あるならば宇宙が己に気づくことかも
最高のSFエンタテインメント小説。とにかく面白いの一言。
地球の危機を救うために人類の代表が冒険の旅に出るというテッパンのストーリーだが、主人公の置かれた状況がユニーク。
まず主人公がある奇妙な部屋で目覚めるところから物語が始まる。覚醒した彼のそばには二人の死体が横たわっている。
なぜか彼には豊富な科学的知識と経験がある。自分が置かれている状況を科学的に分析して、宇宙船の中にいることがわかる。
死んでいる二人はこの宇宙船のクルーで、彼らが生きていた頃の親しい交流も思い出す。宇宙船の中の様々な問題に対処しながら彼は過去のことを少しずつ思い出していく。
彼は、地球の危機を救う手がかりを求めて、地球から1.9光年離れたタウ・セチ星系に13年かけてたどり着いたのだった・・・。
やがて主人公は自分の名前(グレース)やミッションを思い出すのだが、危機に瀕していたのは地球だけではなく、同じように危機に直面して宇宙船をタウ・セチに送り出している知的生命体があったのだ。
その異星人とのコンタクトが面白い。異星文明とのコンタクトというと、『三体』の「暗黒森林理論」を思い出すが、ここではまったく正反対の展開となる。つまり、信頼と協調のストーリーだ。
地球人グレースと異星人ロッキー(グレースが勝手に命名)とのバディ・ストーリーが楽しい。
幾多の困難が二人の信頼と友情を強化するという、これまたテッパンの物語なので、人類(いや知的生命体)なら感動しないわけにはいかない。
物語の根底には「パンスペルミア説」があるのだが、はやぶさ2が持ち帰ったサンプルの中にアミノ酸があることが発見されたりと、現在の方向としては間違っていないのでは。
生命は、思ったよりも普遍的な現象なのかもしれない。そして案外「心」もそうかも。