Sunday, May 14

半七と江戸07(ズウフラ怪談)駒込富士前町


「ズウフラ怪談」

舞台は駒込富士前町の裏手の富士裏あたり。一帯は田畑の間に農家が散在するというさびしい場所で、表通りも寺が並び、町家は門前町ばかりと怪談向けの土地。

そこに真夜中になると「おうい、おうい」と何処ともなく怪しい声が響き渡るという珍事が起こるところから物語は始まる。

十字カーソルの右上が富士塚のある真光寺で、その裏を富士裏と呼んでいた。真光寺は移転しており、現在は富士神社となっている。

明治初期の地図でも表通り以外は田畑ばかりの地であることがわかる

御鷹仕込場というのが鷹匠屋敷のことで、裏に大泉院の名前が見えるが、その奥に神明宮がある。現在は駒込天祖神社。


通りは本郷通り(日光御成道)で、南に下ると本郷弥生あたりで中山道と分かれる追分がある。

地形的には神田駿河台を先端とする大きな舌状台地の上にあって、本郷通りはその台地を縦に横切っている。千川上水の埋樋が通っていた。

十字カーソルの道が本郷通りだが、このあたりは江戸期には鰻縄手と呼ばれていた。名の由来は、寺が鰻の寝床のように並んでいたからという説がある。

左側の中山道が北上して、五叉路状になっている左手に白山権現があった。現在は白山神社。

斜めに切り込んでくる道は、旧白山通りで、台地に上る道だった。下図の切絵図には「白山坂」とあり、現在は都営三田線の白山駅がある。

さて、小説のほうだが、鰻縄手に住む岩下左内という道場主がその謎の声の主を暴きだそうと門弟2名を引き連れて真夜中の富士裏を探索することになる。

神明宮あたりを歩き回っているときに、「岩下左内やぁい」という謎の声が聞こえてきたので佐内は狐の仕業と思って刀を抜いてその声に向かっていく。

先生を見失った門弟たちは、やがて他の門弟たちと暗闇を探し回って左内の死骸を発見する。

門弟の1人、伊太郎は岡崎屋という酒屋の跡取り息子で、店は白山権現前の白山前町にある。

半七たちはこの事件の捜査のために鰻縄手を行ったり来たりするのだが、道が平坦なだけに地形的には面白みに欠ける。

ネタバレだが、結局悪いのは付き添いの門弟ふたりで、伊太郎は左内の妻とできており、もう一人の旗本の次男坊喜平次は道場主の後釜狙いで主殺しを犯したことを半七は明らかにする。

話は、救いのない結末で終わっている。

ちなみに、ズーフラとはオランダから持ち込まれた一種の拡声器のこと。


🙇本ブログの地図は、地形図はアプリの「東京の古い地図2020」、切絵図は同じくアプリ「今昔大江戸めぐり」を利用しております。