Thursday, September 30

あれはてし


あれはてしにはこそよけれなにしおふはきだめぎくのはなさもきたり

荒れ果てし庭こそよけれ名にし負ふはきだめ菊の花も咲きたり

近所に荒れ果てた庭があるが、いろいろな草が繁茂して雑草天国となっている。牧野博士がはきだめで見つけたという花も咲いていた。


ろめんにはふみちらされしいちやうのみたねのみとりさるひとありぬべし

路面には踏み散らされしいちやうの実種のみ採り去る人ありぬべし

職場のまわり。イチョウの実で路面が汚く汚れている。雌イチョウがこんなところにと思ったが、知る人ぞ知る狩り場かもしれない。

Wednesday, September 29

しらかべに


しらかべにやもりいつぴきはりつきてつつけばさつとくらやみににぐ

白壁にやもり一匹張り付きてつつけばさつと暗闇に逃ぐ

今日は自民党の総裁選。まったく関係ないが、夜の壁にヤモリが止まっていたのでつい手を出してしまった。逃げるが勝ち。


もとくらしわがやのしきちのじゆかみればくさにまじりてやつでのはあり

もと暗し我が家の敷地の樹下見れば草に交じりて八手の葉あり

街中でスキマに生きている植物に注意するようになったが、自分の家のまわりは見ていないことに気づいた。灯台下暗し。

Tuesday, September 28

はいをくの


はいをくのべらんだにあるりゆうぜつらんおそひくるごとはをのばしをり

廃屋のベランダにある竜舌蘭襲ひ来るごと葉を延ばしをり

奥沢にある廃屋(たぶん)。壁も屋根もツタに覆われているが、2階のベランダのリュウゼツランが襲って来るエイリアンのように見える。


えきまえのくわだんにつゆくさうゑられてそこをすきまとたますだれさく

駅前の花壇に露草植ゑられてそこを隙間と玉すだれ咲く

『スキマ植物の世界』を読んだ。都会の植物はスキマを探してはそこで充足して暮らしているようだ。ポイントは引き抜かれないこと。

Monday, September 27

しにづたの


しにづたのそのままかべにはりつきてかばねのごとくみをさらしをり

死に蔦のそのまま壁にはりつきて屍のごとく身を晒しをり

壁に這い上がるキヅタを根元から切ってしまった家の壁。ツタのからまる・・というわけにはいかないのだろうが。


こうゑんのけやきといちやうならびたちなかよくそらをわかちあひたり

公園の欅と銀杏並び立ち仲よく空を分かちあひたり

樹木もまた光を求めて競争している。末広がりのケヤキと円錐形のイチョウの樹形を考えて並べて植えたのだろうか。

Sunday, September 26

いにしへの


いにしへのすいろのあとやくわじゆゑんのわきよりにらのはなのさきたる

いにしへの水路の跡や果樹園の脇より韮の花の咲きたる

砧公園の近く。昔の用水路の跡がそのまま遊歩道になっているようだ。道沿いの果樹園は昔は畑だったのだろう。


せたがやののうかのふえんすはきみどりのつたのかざりでおほはれてをり

世田谷の農家のフェンスは黄緑の蔦の飾りで覆はれてをり

世田谷の閑静な住宅地にある農家。目隠しのためか、金網にはオシャレ(?)なプラスチック製のツタがはりめぐらされている。

Saturday, September 25

いけのへり


いけのへりくさよりいでたるいぬたではかつてしだいにはなのほのばす

池のへり草より出でたる犬蓼は勝手次第に花の穂伸ばす

せせらぎ公園には小さな池があるが、ふと見ると赤いイヌタデの花が池畔に咲いている。赤まんまという名のとおりの米粒のような花。


たきのみずもにごりたるにやいけのなかおよぐひごひもいろくすみたり

滝の水も濁りたるにや池の中泳ぐ緋鯉も色くすみたり

小さな滝が流れ落ちて池へと注いでいる。今日は雨後のせいか池の水も濁って、鮮やかな緋鯉もはっきりと見えないほど。

Friday, September 24

ろーたりーに


ろーたりーにめたせこいあのいちぼくがたてりそうみをちぢむるがごと

ロータリーにメタセコイアの一木が立てり総身を縮むるがごと

とある駅のロータリー。その中央にメタセコイアが一本立っている。せっかくの枝も伐りそろえられて残念な姿をしている。


しうぶんのひかりはしやめんのくずはらのすすきのほさきかがよはせたり

秋分の光は斜面の葛原の薄の穂先燿はせたり

昨日は秋分の日。駅の裏手の斜面には色々な草が繁茂しているが、一番目につくのは葛。その中で薄の穂先が輝くように揺れていた。

Thursday, September 23

あかきみの


あかきみのぱくりとわれてくろきたねひつつきたればごんずいとしる

赤き実のぱくりと割れて黒き種ひつつきたればゴンズイと知る

赤い実と黒い種子という組み合わせが目立つので、すぐにこの木と知れる。代々木公園の木が馴染みの木だったのだが。


たそがれのもりをあるけばまちにきかぬつくつくぼふしきそひてなけり

たそがれの森を歩けば街に聞かぬつくつくぼふし競ひて鳴けり

蝉の声が聞かれなくなった。久しぶりに近所の保護林に入るとけたたましいほどツクツクボウシが鳴き競っている。

ゆふまぐれ


ゆふまぐれじゆじやうになくはあをまつむしおそるるものなくこゑたからかに

夕まぐれ樹上に鳴くは青松虫恐るるものなく声高らかに

夜になると高いところから聞こえる虫の声。外来種のアオマツムシだという。天敵がいないので我が世の春を謳歌しているらしい。


たみくさはくさのごとくになでぎられいつしやうにげてひやくさうからる

民草は草のごとくになで斬られ一将逃げて百草刈らる

『黒牢城』という小説を読んだ。逃げた武将は荒木村重やその家老だが、そのために多くの血が流れた。

Tuesday, September 21

かきのみの


かきのみのあまたえだぎにじゆくしたるひととせひともとりもくはずや

柿の実のあまた枝木に熟したる一年人も鳥も食ずや

電車から見た光景。一本の大きな柿の木に熟柿がたくさん残っている。これもまた木守柿ということなんだろうか。


まんげつのちかくにかがやくもくせいはよんじつぷんのながたびをせり

満月の近くに輝く木星は四十分の長旅をせり

今日は中秋の名月で満月。月まで光速で1.2秒だが木星までは40分かかる。この光の遅さによって我々は守られているのかもしれない。

Monday, September 20

かぜふけば


かぜふけばづじやうにさやぐぽぷらのははげしくみだれてひとはもおちず

風吹けば頭上にさやぐポプラの葉激しく乱れて一葉も落ちず

近所の公園のポプラの木。まだ暖かさの残る風がその葉を激しく揺らしている。このにぎやかな葉音にも進化生物学的な意味があるのか。


ゆふぐれをかへればすずめのなくをきくおやどははななききんもくせいか

夕暮を帰れば雀の鳴くを聞くお宿は花なき金木犀か

雀の鳴き声がキンモクセイの木の中から聞こえてくる。たぶんそこが雀のお宿なのだろう。下に行くと落花が芥のように落ちていた。

Sunday, September 19

あきにさく


あきにさくはなのめだたぬおほかれどなどかあぢさゐいまださきたり

秋に咲く花の目立たぬ多かれどなどか紫陽花いまだ咲きたり

季節外れの花は狂い花などというが、いまだ近所のガクアジサイの「花」が咲いているのもそれだろうか。


ねこそぎにまはりのきぎもひきぬかれふるきりよくわんはあとかたもなし

根こそぎに周りの木々も引き抜かれ古き旅館は跡形もなし

ちまたでは「コロナ廃業」が問題になっているが、多摩川近くの古い旅館が取り壊されて更地になっていた。周りの木々も道連れになったか。

Saturday, September 18

みなみより


みなみよりかぜふきたちてのわきめくゆるるくさきにはやはぎのはな

南より風吹たちて野分めく揺るる草木にはや萩の花

台風の影響で南から雨風が吹いてくる。河岸段丘の縁にあるせせらぎ公園。もう萩の花が咲いていますねと言われて気づいた。


このあめにはなはちりなんきんもくせいますくはづしてそのかをすへり

この雨に花は散りなん金木犀マスク外してその香を吸へり

今夜ずっと降り続く雨。早くも咲いたキンモクセイの花も散ってしまうだろう。強い香りは苦手だが・・。

Thursday, September 16

としごとに


としごとにおもひいだせぬなのふえてしればなつかしきやぶめうがのみ

年ごとに思ひ出せぬ名の増えて知れば懐かしき藪茗荷の実

林の中を歩き回っていたころ、よく見かけたヤブミョウガ。その名前を知って過去へのつながりがもどってきた。


なつすぎてひともわするやまどのそとだいだいいろのごーやぞたるる

夏過ぎて人も忘するや窓の外橙色のゴーヤぞ垂るる

夏の間は日除けカーテンとなっていたゴーヤの葉もすっかりまばらになって、その中に橙色の巨大な実がぶら下がっている。

そのむかし


そのむかしくらししまちをでんしやゆくみのるいなだやかくせまかりき

その昔暮らしし町を電車ゆく稔る稲田やかく狭かりき

電車が昔住んでいた町を通っていく。稲田は稔りの季節を迎えているが、宅地化のせいでずいぶん狭くなった。

Wednesday, September 15

やさいとて


やさいとてたねからたねへとゐでんしをつなぐしよくぶつかんしやしてたぶ

野菜とて種から種へと遺伝子をつなぐ植物感謝して食ぶ

『種から種へ 命つながるお野菜の一生』という本を読んだ。野菜もまた肉のように「命」をいただいている。


びるのかべをこえんとのぶるこずゑのはよらねばしらずかつらのきとは

ビルの壁を越えんと伸ぶる梢の葉寄らねば知らず桂の木とは

いつも食事しながらぼんやりと見る前の広場の木。近寄ってはじめてそれがカツラの木だとわかった。

Tuesday, September 14

うへきられ


うへきられしたのみしげれるつがのきのむかうのかべにしつぐわいきあり

上伐られ下のみ繁れる栂の木の向かうの壁に室外機あり

広場の片隅にあるツガの木。一本だけ幹から上半分が伐られている。ふと見ると向こうのビルの壁にエアコンの室外機が設置されているのだ。

Monday, September 13

ほーむより


ほーむよりみやればはなさくたけにぐさはじめてえきのみなみをあるく

ホームより見やれば花咲く竹似草はじめて駅の南を歩く

いつも使う駅、使わない南口にたくさんのタケニグサが花をつけていた。見においでよと言われたような気がした。


きのふみしみじかきくきのひがんばなけふつきぬけてつぼみあらはす

昨日見し短き茎の彼岸花今日突き抜けてつぼみ現す

彼岸花の開花のスピードはこんなに早いのかと驚く。今日はつぼみだが、明日は満開の花が咲き揃いそうだ。

Sunday, September 12

つねならば


つねならばかをりよりしるきんもくせいことしははなのいろにぞきづく

つねならば香りより知る金木犀今年は花の色にぞ気づく

キンモクセイの強い匂いは苦手だ。まるで大勢で自分の存在を主張しているように感じる。今年はどうも開花が早いようだ。

Saturday, September 11

くさむらの


くさむらのしげりみたればまどわくにこつねんとゐるおほかまきりは

草むらの茂り見たれば窓枠に忽然とゐる大カマキリは

自分が動いていると止まっている虫を見つけるのは難しい。止まって初めて虫たちの世界が見えてくる。私が虫だったらカマキリの餌食だった。


しよくかくをかぜになびかせかまきりはびどうだにせずくわしんをみたり

触覚を風になびかせカマキリは微動だにせず花芯を見たり

カマキリはまるで止まった器械のように動かない。花を訪れる獲物を狙って戦闘モードに入っているのだろう。

Friday, September 10

いへほろび


いへほろびにはききられてみきのこれりなにかとおもへばだいわうしようなり

家滅び庭木伐られて幹残れり何かと思へば大王松なり

近所の個人病院が取り壊されている。シンボルツリーだった大王松も枝を伐られていたが、どこかに植え替えられるといいのだが。


あきあさくみどりにうもるるなんてんのひとははへりよりはやもみぢせり

秋浅く緑に埋もるる南天の一葉はへりよりはや紅葉せり

残暑が続く。植物は盛んに光合成をしている(有害な緑色光を撒き散らしている)が、その中に地味に南天の紅葉が始まっていた。

Wednesday, September 8

あめあがり


あめあがりろめんにはゆるちりおちばおほかるものはさくらなるめり

雨上がり路面に映ゆる散り落葉多かるものは桜なるめり

だんだんと落葉の季節。散っている落葉の中で桜が一番多いが、散る順番があるのだろうか。


あぢさゐのはなにみえにしがくのへりにほのかにもとのいろのこりをり

紫陽花の花に見えにし萼のへりにほのかにもとの色残りをり

紫陽花の季節には人々の目をひきつけていた装飾花も今はすべてが緑色に溶け込んでいる。わずかに萼に残る色以外は。

ほのぐらき


ほのぐらきあたりにあればなほさらにまがまがしくみゆだちゆらのつぼみ

ほの暗きあたりにあればなほさらに禍々しく見ゆダチユラのつぼみ

ダチュラという名は京極夏彦の小説で知った。本当に催淫性があるのかは知らないが、どうしてもそのイメージで見てしまう。

Monday, September 6

ふとみれば


ふとみればえきしやのまどよりほそきはのいでたりすすきはやみをつけて

ふと見れば駅舎の窓より細き葉の出でたり薄はや花つけて

いつも使っている駅のホーム。窓の外の草むらをみると大きなススキが花をつけていた。もう月見のシーズンか。

あきさめの


あきさめのふりみふらずはんてんのくちばをふみてゆりのきとしる

秋雨の降りみ降らずみ半纏の朽葉を踏みてユリノキと知る

いつも歩く商店街で半纏の形の落葉を踏んだ。見上げて探すとユリノキがあった。どうしていままで気づかなかったのだろう?

Saturday, September 4

たいりんの


たいりんのひまはりかうべをおもくたれふたたびひのめをみることありや

大輪の向日葵頭を重く垂れ再び日のめを見ることありや

大きな頭のヒマワリの花。盛夏にはしっかりと太陽をとらえていたのであろう。焼け焦げたように頭を垂れている。


いちやうのみさらにじゆくしてきみまじるいつまでなくやつくつくぼふし

いちやうの実さらに熟して黄みまじるいつまで鳴くやつくつくぼふし

九品仏の浄真寺。大イチョウの木の実が目立つようになってきた。境内にはツクツクボウシが切羽詰まったように鳴いている。

Friday, September 3

かしましき


かしましきこゑもやみたりゆふやみのきぎにひそめるむくどりのむれ

かしましき声も止みたり夕闇の木々にひそめる椋鳥の群れ

最近大群のムクドリが駅前の木々をねぐらにして、それが一種の公害のようになっているという。

Thursday, September 2

こよひまた


こよひまたあめになるらんほそづつのおしろいばなのはなひらくころ

今宵また雨になるらん細筒の白粉花の花開く頃

残暑なく秋雨が降り続いている。雨の中でもオシロイバナは午後4時頃から花を開く。

Wednesday, September 1

たけきかほ


たけきかほなれどやさしきものもありやをらみつすふまるはなばちは

猛き顔なれど優しきものもありやをら蜜吸ふマルハナバチは

見た目は怖そうでも案外優しい性格の人がいるように、マルハナバチも攻撃的ではないという。


たまがはのかはらなつかしぽつねんといまもたちたるおにぐるみのき

多摩川の河原なつかしぽつねんと今も立ちたる鬼胡桃の木

久しぶりに車窓から見た河原。昔木々を訪ねて歩いたときに近くで見たオニグルミの木がそのままの姿で立っていた。