少年の少女に挿頭せし白百合は見えぬが故に今なほ白し
『黒百合』(多重斗志之)を読んで。
ミステリー文芸というべき作品。
14歳の3人の少年少女(一彦、進、香)が避暑地六甲山で過ごしたひと夏の体験が中心的なストーリー。
それに彼らの親たちの物語が重なって最後にひとつのミステリーに収斂していくという展開。
ストーリーは割愛するが、ミステリーとして見たときに、最後の種明かしで明らかになった相田真千子と倉沢日登美の関係など、ツジツマ合わせ的な不自然さが残る。
2人はお互いを認識しているはずだが過去は精算して何事もなく暮らしているのだろうか?
また真千子の「性癖」や行動様式は戦後激変したのであろうか?
いずれもなんらかの説明がほしいところ(ヒントのようなものを私が見落としているだけかもしれないが)。
それ以外にも貴代司の脅迫と殺人などちょっとご都合主義的すぎるのではないか。それならば「おばさん」の仮面をかぶった真千子の凄みにも触れるべきでは?
むしろ最後の殺人はなしにして真千子のキャラ変と見える変化の「真相」を最後に謎解きするような展開もあったのでは?
浅木と真千子に「君の名は」のような波乱万丈があったと匂わせるという終わり方もあったのでは?
いろいろと難癖をつけているようで恐縮だが、読者が書かれていない物語を空想してはどうかということかもしれない。
いずれにしても余韻の残るすぐれた作品であることは確か。
今更ながらだが、著者の失踪は残念でならない。